韓国ドラマ「愛の不時着」の作家から取材を受けた、エリート階級出身の脱北ストーリー

韓国ドラマ「愛の不時着」の作家から取材を受けた、エリート階級出身の脱北ストーリー

韓国では北朝鮮から逃げてきた人(以下、脱北者)のテレビ番組があります。

「今会いに行きます(이제 만나러 갑니다)」という、どこかで聞いたようなタイトルですが、たまに見ることがあります。

韓国ドラマ「愛の不時着」は脱北者出身の作家さんが補助作家として参加し、脱北者たちを取材しています。

その中の1人、ヒョンビンが演じていた、リ・ジョンヒョクのモデルではないかと言われている人がいます。

名前はキム・ジュンヒョク(김준혁)さん。

数少ないエリート階級出身の脱北者です。

彼は実際にドラマ制作前に取材を受けたと語っています。

北朝鮮での名前はキム・クムヒョク(김금혁)。

エリート階級・留学生という点でドラマの脚本に大きく影響を与えました。

彼が番組で脱北時のエピソードを語っていたので、youtubeの証言と合わせてまとめてみました。

 

~ キム・ジュンヒョクさんの脱北ストーリー ~

 

エリート出身

出典 http://www.ichannela.com/

お父さんは北朝鮮と中国を行き来する事業家で、平壌出身のお金持ちです。

平壌出身の脱北者はほとんどいません。

韓国にいる脱北者のほとんどは地方出身者です。

それは平壌はお金持ちが多いためです。

生活が豊かだと脱北する必要はありませんよね。

彼は両親から外交官になることを望まれていました。

学生時代は平壌外国語学院という、中高一貫校に通います。

大学は金日成総合大学という、超エリートだけが行く大学に入学します。

彼は外交官を目指すため、英語英文学科の外交官養成コースに進学します。

ちなみにこの大学入試は3日間あって、歴史問題に金正日一家の歴史も出ます。(笑)

 

人生の転機、留学

それまで北朝鮮では文系は留学できませんでしたが、2009年から文系も留学できるようになりました。

留学には2タイプあります。

・国家留学

・自費留学

文系はほとんどが自費留学となります。

自費留学の条件としては、

・お金があること(全額自己負担)

・父母どちらかが、留学先の国に住んでいること

・週1回大使館に行くこと

でした。

彼には中国で仕事をする父親がいて、お金持ちであったため中国留学することができたのです。

 

自分だけ知らなかった北朝鮮

彼が留学したのは、中国北京の北京語言大学でした。

そこで初めて、韓国人、中国人、日本人、アメリカ人と出会います。

北朝鮮留学生は韓国人留学生と会ってはいけないし、話してはいけないと言われていました。

でもその大学に北朝鮮留学生は彼だけでした。

そんな中、「天安沈没事件」が起こります。

天安沈没事件とは

2010年3月26日 韓国と北朝鮮の軍事境界線付近で、韓国軍の船が沈没、軍人104名のうち46名が死亡。

後に北朝鮮が攻撃したものと判明。

死亡した人のほとんどが兵役中の若い学生さんでした。

その事件で、ある韓国人留学生が彼に「お前の国はひどいじゃないか!」と攻めたてたのです。

そしてちょっとしたケンカとなります。

 

ある韓国人留学生との出会い

その夜、落ち込んだ彼に「タッカルビでも食べよう」と誘った韓国人留学生がいました。

そして二人はタッカルビを通して、いろいろな話をするのです。

そこで初めて知ったのは民主主義人権というものでした。

脱北者と呼ばれる人がたくさんいること。

自分の祖国、北朝鮮がこれほどまでに悪いことをし、世界中から非難されていること。

彼は生まれて初めて知るのです。

それからというもの、彼は学校から帰るとインターネットで検索し、北朝鮮の情報を集めました。

彼は父親がエリート階級だったため、パソコンでインターネットも自由にでき、キャッシュカードも持てる豊かな環境でした。

調べてわかった北朝鮮の衝撃の事実。

そして毎週土曜日に行く大使館で、金日成の肖像を見た時、怒りがこみ上げるようになったのです。

 

逃亡生活

やがて彼は仲間と秘密で読書会を開くようになります。

金正日が死んだ日は仲間とパーティーをしたそうです。

その報告を誰かがしたのでしょう。大使館からマークされるようになります。

ある日大使館から「ビザ問題のために大使館に来るように」と電話がかかってきます。

ビザは少し前に更新したばかりで、何の問題もないはずでした。

おかしいと思った彼は下宿先から逃げ出します。

その後、行きつけのインターネットカフェで3週間過ごします。

教会に行けば助けてもらえるかと教会に行きましたが、教会はどこも断られました。

中国大使館もすでに連絡が来ていて助けられないと断られます。

UNへ連絡しましたが、アメリカに行くには3ヶ月待たなければならないと言われます。

 

ある牧師さんとの出会い

途方に暮れた彼はあるピザ屋に立ち寄るのです。

そこで韓国人に出会い、事情を説明します。

たまたまそのお店にいた韓国人客が彼に「本当に脱北したいのか?」とたずねました。

彼は切実に脱北したいと訴えました。

その韓国人客は脱北を助ける牧師さんだったのです。

そしてこの牧師さんの助けを借りて脱北の準備をします。

 

中国を出国する時

偽のパスポートを作り韓国へ行くのです。

牧師さんのアドバイスどおり、中国人のように髪を短くし、染めました。

空港でパスポートを出す時、手が震えたのを今でも覚えています。

空港には大使館からの情報を受け、北京にいる全ての北朝鮮留学生、北朝鮮人が必死に彼を探していました。

向こうから韓国人団体旅行客がやって来ました。

その時、誰かに腕をぐっとつかまれました。

韓国人団体旅行客の1人が「あなたを助けに来ました。」と小声でつぶやいたのです。

韓国人団体旅行客は牧師さんが準備した人たちだったのです。

そして彼は韓国人団体旅行客にまぎれて中国を出国することができたのです。

 

2012年、韓国へ

「アニョハシムニカ オソオシプシオ」

飛行機でそう迎えられた時、感動で涙が止まりませんでした。

飛行機に乗った瞬間から到着までずっと泣いていました。

21歳には重く、耐えられない出来事でした。

初めて見る韓国、仁川空港の大きさにびっくりしました。

韓国はこんなに豊かなのに、北はこんなに貧しいのかと思いました。

 

彼は現在、韓国の高麗大学に在学中です。

両親はどうなっているかわかりません。

メディアに出た脱北者は北朝鮮に残る家族が危険にさらされるでしょう。

でもそれ以上に、北朝鮮の事実を伝え、北朝鮮が生まれ変わって欲しいと願っているのです。